ものづくり補助金申請時に立てた賃上げ計画は、審査で採択された場合には履行するのが原則です。
賃上げ計画は単なる計画ではなく、約束であると考える必要があります。
また、事業実施期間内において賃上げ目標が未達成の場合、受け取った「ものづくり補助金」の返還が求められることもあります。
せっかく補助金で設備投資を行ったにもかかわらず、その補助金の返還を求められてしまっては経営に与える影響も大きいでしょう。
返還額次第では資金繰りに窮することもあるでしょう。
そのため、こういった返還を求められないように注意する必要があります。
ここでは、賃上げ目標の達成・未達成を原因とする補助金返還の規定を確認しておきましょう。
■返還が必要となるケース
ものづくり補助金(2020年度)の公募要領には、賃上げ目標の未達成を原因とする返還に関し、以下のように規定されています。
① 給与支給総額の増加目標が未達の場合
事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上増加目標が達成できていない場合は、導入した設備等の簿価又は時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還を求めます。
② 事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合
事業計画中の毎年3月時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合は、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求めます。
補助金の返還は、給与支給総額の増加と、事業場内最低賃金のそれぞれの未達成時において条件がつけられています。
どちらか一方だけでも未達成なら、それだけで補助金の返還を求められる可能性があります。
給与支給総額の達成・未達成を判別されるタイミングは、ものづくり補助金における「事業計画終了時点」です。
当初申請時に3年計画を作成すれば3年後、5年計画であれば5年後となります。
この終了時点において給与支給総額が年率1.5%以上の増加を達成していないと、補助金の返還を求められます。
そして、返還額は、以下の計算式によって求められます。
給与支給総額の増加目標未達成時の要返還額
要返還額=残存簿価等×補助金額/実際の購入金額
あくまでその時点の残存簿価を対象として、返還が必要となる金額が計算されます。
一方、事業場内最低賃金は毎年3月時点において確認されます。
給与支給総額のように計画終了時点ではないことに注意が必要です。
終了後ではなく、毎年の確認です。
仮に、加点を受けるために、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円に設定した場合、補助事業実施から最初に来る3月時点において、この増加目標を達成するように取り組んでおかなければなりません。
この賃上げ目標を達成できていないと補助金の返還を求められてしまうこともあるためです。
事業場内最低賃金が目標未達の場合の補助金返還額は、受け取った補助金を事業計画年数で除した額となります。
3年計画であれば3分の1、5年計画であれば5分の1といった計算になりますが、実際の返還額はその都度事務局が計算します。
■返還が不要となるケース
なお、給与支給総額、及び事業場内最低賃金が増加目標を達成できなかった場合でも、補助金の返還を求められないケースもあります。
こちらも確認しておきましょう。
まず、ものづくり補助金の公募要領に定められている「賃上げ目標が未達でも返還を求めない場合」について確認しましょう。
公募要領には以下のように記述されています。
① 給与支給総額の増加目標が未達でも返還を求められないケース
・付加価値額が目標通りに伸びなかった場合に給与支給総額の目標達成を求めることは困難なことから、給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均/2」を越えている場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めません。
そもそも、申請時に作成した事業計画の付加価値額が目標通りに増加しなかった場合には、給与支給総額の増加目標が未達でも容認されることになっています。
付加価値額とは、営業利益+人件費+減価償却費で計算される利益の指標です。
つまり、事業者として予定していた利益(付加価値額)を達成しているのに、それを給与支給総額として従業員に還元しなかった場合に返還を求めるということになります。
・給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認めます。
また、給与支給総額での計算が実態を反映できない場合には、一人当たり賃金の増加率を使用することも認められています。
給与支給総額での計算が適切でない場合とは、主に、小規模事業者などで従業員数が少なく、計画期間中に意図せず、従業員が退職してしまい、補充もできなかったという場合が該当します。
従業員は採用したくても、小規模事業者の場合、外部環境によって採用が容易でないこともあります。
こういった場合、給与支給総額の増加は難しいが、1人あたり従業員の支給総額を増加させていれば返還を求められないこともあります。
なお、給与支給総額が未達で、上記のような「返還を求めないケース」に該当しない場合でも、ものづくり補助金で受けとった補助金額全額を返還するわけではありません。
返還が必要となる補助金の額は、計画終了時点の簿価が基準となって計算されます。
そのため、仮に5年償却となる設備を購入し、5年間の事業計画で取り組んでいた場合は、計画終了時点の簿価もほぼ「0」ということになりますので、補助金の返還額も発生しないということになります。
② 事業場内最低賃金の増加目標が未達でも返還を求められないケース
・付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めません。
事業場内最低賃金の未達においても、給与支給総額と同様の規定が設けられています。
そもそも、付加価値額の増加率が年率平均1.5%以上に達していない場合、および天災などの原因がある場合には、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていなくても返還を求められません。
なお、給与支給総額の目標未達成が認められるのは、付加価値額が目標通りに伸びなかった場合ですが、事業場内最低賃金の返還が求められないのは、付加価値額が年率1.5%以上伸びていない場合です。
同じ付加価値額でも、基準に違いがあることは理解しておいた方が良いでしょう。
賃上げ加点の考え方、規定については法人、個人事業主を問わず、ほぼ同一のルールとなっています。
しかし、給与支給総額の計算方法などで、個人事業主は解り辛く、誤りやすいので注意が必要です。
前述の通り、ものづくり補助金の賃上げ要件においては、給与支給総額は以下で計算されます。
給与支給総額=給料+賃金+賞与+役員報酬
しかし、この計算式は、法人の決算書類をもとに定められていますので、個人事業主の確定申告書類でそのまま適用して計算することは困難です。
この点、ものづくり補助金には、以下のように定められています。
給与支給総額=給料賃金+専従者給与+青色申告特別控除前の所得金額(⑳+㊳+㊸)
*2022年申請基準時点
そのため、ご自身が申請する際には、その時点での最新情報を確認する必要があります。
個人事業主の確定申告書(青色申告決算書)には法人決算書類のような「役員報酬」という項目がありません。
また、法人決算書が営業利益などを計算するのに対し、個人事業主には営業利益などの概念もありません。
そのため、給与支給総額を計算する場合も、法人と同様には計算できないのです。
個人事業主の場合、製造原価に給与・賃金を加えている方は、こちらも給与支給総額に含まないという違いがあります。
これも上記の計算方法通りですが、法人との違いになります。
ですので、実際に個人事業主が従業員に支払った給料などと、ものづくり補助金の申請でき記載する給与支給総額が大幅に異なるということもあり得ます。
本日は以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。