随分と前にコンサルティングをしていて、次のようなことがありました。
クライアントの社長にある提案をしようと話し始めたときのことです。
さわりを5分程度で話し、その必要性と期待される効果について説明しようとすると、社長は途中で話を遮り「それはもうさんざんやりました」と話されました。
ご本人は「さんざんやった」と言っているが、事実かどうかは分かりません。
むしろちゃんとやっていない可能性の方が高いと推測できます。
なぜなら、本当にやったら大抵はなんらかの結果が出ることが多い内容でしたし、結果が出ないにしても、そのときの点検と振り返りによって、得られる教訓というのは必ずあります。
それがPDCA等の改善活動です。
そのことが私には推察できましたので、「具体的にはどんなことをされましたか?」と質問してみたところ、「昔のことなので、細かいことは忘れた」とお茶を濁されます。
こうなると、その社長にとって、提案を本当にやったかどうかはどうでも良かったことが想像できます。
やりたくない理由を探して話している可能性があります。
それがその時の「社長の内面における事実」と判断したならば、その行動の有無を今更はっきりさせようとして、社長のプライドを傷つけることは、大局的に見て得策ではありません。
ここで、経験の浅い方は無理に意見を通そうとしがちです。
主張を通したら勝ち、通せなかったら負けのようなWin-Loseの意識に気づかないうちに陥るのです。
実は、経営支援の業界にキャリアチェンジしてすぐの頃の私もこのような失敗をしていました。
この時の議論の主流は、本当に社長がその提案に類する行動計画を実施したかどうかを暴くことではなく、社長との信頼関係を築きながら、長期的に見て会社の根本的な問題点を一緒に探ることにありました。
本当の事実を確かめようもないことでいたずらに意地を張って感情的に対立することは避けたいものですね。
客観的な事実を元に議論をするのはもちろん大事ですが、先程の事例のように、相手の今の気持ちがどのような状態かというのも一つの事実です。
いずれにせよ、憶測や仮定などの不確かな前提に基づく議論等で考えがまとまらない時は、そこにこだわって停滞させない方が上手く進みます。
笑顔でスパッと頭を切り替えて、小口化した要素のうち、確定した事実に立ち返り、相手の心情も配慮しながら議論を仕切り直すことが大事です。
その上で、現場・現物・現実に戻って何度でも検証しながら振り返ってみるという態度は、込み入った問題を適切に解決するためにとても大事な習慣です。