注目を集めつつある公庫の不動産融資について

注目を集めつつある公庫の不動産融資について

お客様からのご相談の中で、これまで不動産融資を積極的に行っていた金融機関も、次第に融資基準が厳しくなっているのを感じます。 かつては当然だった「フルローン」「オーバーローン」という言葉も死語になりつつあり、購入価格の2割+諸費用の拠出で残額の融資が受けられるなら十分だ・・・というような状況にもなってきました。 1億円の物件を買うためには、3千万円近い現金を実際に拠出するということですから、物件購入のハードルは相当上がったと言えます。

そんな中、注目を集めつつあるのが「日本政策金融公庫」です。

  今回は、知っているようで知られていない、公庫のお話をしていきましょう。

■公庫と他の金融機関の違い

どこからか「普通の金融機関は難しいけど、金融公庫なら借りられるかもしれない」という情報を得てきたような方に話を聞いてみると、公庫についての知識や事前の情報がほとんどないことに驚かされます。 確かに、公庫は他の金融機関と違って独自の基準と審査で融資をしていますが、だからこそ「どこが普通の金融機関と違うのか」を知っておく必要があります。

「日本政策金融公庫」は、2008年に「国民生活金融公庫」「中小企業金融公庫」「農林漁業金融公庫」の3つの金融機関が合併してできました。合併以前から、旧:国民生活金融公庫は収益不動産購入に活用できる金融機関として、一部の投資家さんは積極的に利用していました。  政策金融公庫では、「コッキン」の事業を引き継いだ「国民生活事業」として、今でも収益不動産購入の融資を割と積極的に行っています。

公庫ホームページの国民生活事業についての説明を見てみると、 「小規模事業者や創業企業の皆様への事業資金融資」を扱っているという記載があります。 これから不動産投資を始めるサラリーマンの方は、小規模事業者で創業企業ということでバッチリ当てはまるという訳です。

逆にいうと、「サラリーマンの副業」「投資」「資産運用」「リタイア狙いのキャッシュフロー獲得」という目的ではお金を借りられないということも予想できます。あくまでも事業者の資金調達として融資の申込をして下さい。 「不動産投資」ではなく「不動産賃貸業」です。

■公庫融資、最大の秘訣とは?

公庫融資の秘訣を簡単にお伝えすると 、「公庫で融資を受けるには、公庫向きの物件を探してくる」 ということに尽きます。 自分の買いたい物件を公庫に持ち込んで玉砕するのではなく、公庫が好むような物件を見つけてくるのです。

具体的には、公庫では多くの金融機関が査定をする際に重視している「積算評価」というものに頼った融資をしていません。 というより、公庫の積算評価は他の金融機関に比べて厳しすぎるため(収益物件というだけで評価を大幅に下げているそうです)、普通の銀行では買値以上の評価が出るような物件であっても、ロクな査定にならないのです。

ですから、多少古いものであっても利回り=収益性の高い物件を狙っていくのがお勧めです。 そもそも、公庫の融資期間は10~15年がメインで長期の融資はほとんど扱っていませんので、キャッシュフローを適切に確保するという観点からも、一定水準以上の利回りが必要です。 また、詳しく説明すると長くなるので省略しますが、比較的少額の融資であるほうが公庫の融資では有利です。 国民生活事業での借入限度額は4,800万円なので、その範囲内であれば融資自体は可能なのですが、概ね2千万円以内くらいの物件を持ち込んだ方が、よりフルローンに近い融資が受けられる可能性が高まります

■事業計画をしっかり作り、事業者の自覚を持つ

公庫では融資を受ける際に「創業計画書」という名称の書類を提出させられます。区分マンションや戸建を購入する際には省略しても構わないこともありますが、一棟ものの場合は必須です。 これまで不動産会社に融資付けを頼っていた人にとっては、こういった書類の作成はかなり手こずるかもしれません。 しかし、自分で事業に必要な資金計画を立て、売上と経費の予測と推移を計算していくことで、その物件を本当に買って良いのかどうかも見えてきます。

キャッシュフローが赤字のまま販売される物件や、経費などの変動要素が異様に大きな物件は、こういった計画書を作っていると自分で「これはおかしい」と気づくはずです。 ちなみに、公庫がひな形として提供している事業計画書は、賃貸業には少し使いづらい書式になっているので、ご自身で作成された方が良いでしょう。 収支の予測だけでなく、以下のような要素を盛り込むと説得力が増します。

・自治体の人口増減

・相続税路線価の推移

・最寄り駅の乗降客数推移

・ライバル物件のスペックと募集賃料、空室率 ・物件の周辺環境や生活施設

・内外装のバリューアップ計画と必要予算

積算評価と現況の収入をもとに機械的な査定をされる融資に慣れてしまっていると、このような書類は面倒なように思えますが、その感覚こそが危険です。 何千万円もの資金を投じて事業を行うのですから、計画書くらい作って当たり前という価値観を持ちましょう。 融資が厳しい時期になると注目されるようになる金融公庫は、不動産投資家に事業者としての自覚を持たせて失敗者を減らすような役割を担ってきたのではないかと私個人的には感じます。

岸本が代表を務める→株式会社ケーズパートナーズ

岸本圭祐

㈱ケーズパートナーズ 代表取締役 中小企業の➀資金調達、➁経営計画作成・実行、➂スモールM&Aを支援している。

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