経営者は財務状況に余裕が出てくると、金利の負担がもったいないと感じ始め、借入金の繰り上げ返済をしたいと考えることがあります。今回はこの繰り上げ返済についての私の私見をご紹介させていただきます。
繰り上げ返済をすれば銀行にお金を早期に返せるので、借りた側としては、銀行にとってありがたい話と思う方も多いでしょう。しかし、貸し手側の銀行は必ずしもそう思うわけではありません。
融資は立派な契約です。
借入額や借入期間、また借入金利など様々な取り決めを交わしたうえで、銀行は融資します。
それを踏まえると、契約とは異なる時期の返済は、契約違反とも言えるのです。
そもそも銀行の実入りが減るという問題があります。
例えば、10年返済の融資なのに2年で繰り上げ返済すると、8年分の利息を銀行は取り損ねてしまうのです。
銀行にとって繰り上げ返済は、最初の契約を変更するという点において、語弊を恐れずに申し上げると、返済金額の減額や返済期間の延長を認めるリスケと変わらないのです。
「繰り上げ返済は銀行にとってありがたい話」という考えは改める必要があるかもしれません。
銀行に配慮して返済を進めるのが良いお付き合いのお作法です。
具体的なお作法としては下記が挙げられます。
1.銀行の決算月を避ける
最近は行員ごとの目標設定を廃止する銀行もありますが、一般的に行員は、預金や融資、金融商品に関する達成目標を設定し、数字を追いかけています。その目標の節目となるのが3月と9月の決算期です。そのため、行員にとって最も大事な月である決算月に、繰り上げ返済を持ち掛けるのはなるべく避けるべきです。行員の事情に配慮して対応しないと、信頼関係が崩れてしまいかねません。
2.定期預金の取り崩しをしない
中小企業の経営者の繰り上げ返済では、積立や定期預金を解約して資金をねん出し、それを元に返済することが多いと思います。ただ、積立や定期預金の解約は担当者の実績が悪くなる行為であり、担当者にとっては好ましいことではありません。ただし、銀行によっては融資先が見つからずに預金が余っていることがあるので、預金の減少がそれほど痛手とはならないこともあります。
3.新規の短期返済をしない
銀行から融資の提案を受けた際は、それほど資金を必要としていなくても、お付き合いなどの観点から借りることがあります。こうした案件でも、借りてからすぐに返済することはやめましょう。もしそれほど必要ない資金なら、融資を受ける前に「〇月〇日には繰り上げ返済する」という約束をしておくようにしてください。約束もせずに返済依頼をすると、本当に資金が必要な時に担当者から「今度の融資もすぐ返済されてしまうのではないか」と疑念をもたれてしまうことがあるので注意が必要です。
4.一部繰り上げ返済をしない
大きな仕事が舞い込んで多額の受注代金が入ると、経営者は借入金の一部繰り上げ返済をしたいと考えるものです。しかし一部繰り上げ返済が市民権を得た住宅ローンと違い、法人融資ではそこまで定着していないので、無理に銀行に依頼するのは得策ではありません。
5.担当者を通さずに窓口返済をしない
「思い立ったら吉日」とばかりに銀行に突然赴き、融資窓口で繰り上げ返済しようとする人がいます。融資担当者はそのような行為を嫌がります。返済の事実をしばらく把握できず、そのことによって上司から「顧客管理がなってない」と指摘される原因になるからです。繰り上げ返済をしたいのなら、最初は担当者に話した後、上位職者の課長や支店長と交渉するように心掛けましょう。
次に、繰り上げ返済の落とし穴についてご紹介させていただきます。
複数の金融機関と取引する中小企業経営者は、少額となったサブバンクの借入金について繰り上げ返済し、あえて取引解消を目指すことがあります。取引行を絞った方が資金管理が楽になるという考え方もありますが、金融機関が再編・統合の時期に入ることが予想されているなか、繰り上げ返済をして取引先を減らすのは得策ではありません。ただでさえ金融機関の選択肢が少なくなることを肝に銘じ、取引を考えるべきです。
また、経営者が繰り上げ返済で取引を解消してしまうと、新たな融資を受けにくくなるという問題もあります。融資を受けていた間は毎年決算書を提出しますが、取引解消後はその必要がなくなります。そうなると金融機関は、企業の実態が全く掴めなくなります。数年経って関係が疎遠になった後に企業が融資を受けようとしても、簡単にはいきません。
一度取引を解消したために不信感を抱かれているということもありますが、取引をしていた時のようには会社の実態を知ってくれるわけではないので、銀行としては貸しにくくなるのです。金利負担の軽減など目先のことも大事ですが、将来の取引を見据えた上で、繰り上げ返済を考えなければなりません。
岸本が代表を務める→株式会社ケーズパートナーズ
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